アニメーション映画『思い、思われ、ふり、ふられ』感想

紙鶴です。表題通り。ネタバレと妄想含みます。あしからず。

 

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雨に雪、水面に涙と、水が印象的な作品だった。

 

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由奈は雨と涙。

理央に目線を合わせられたとき。由奈が理央への好意を自覚する。陰鬱な曇天など最初からなかったように、彼女の目には雨が氷のように輝き出し、恋に恋する少女が恋をする瞬間を目の当たりにした。雨粒1粒1粒が姿を変えた。

由奈が理央に告白したとき。理央の気持ちを知りつつも、想いを告げる道を選んだ由奈。その選択は視聴者に雲の切れ間から射す無数の光と花咲き揃う景色を見せるほど透んだものだった。しかし、実際には灰色の空から降り注ぐ雨に似た悲しみの涙を由奈が流す結果に終わった。理央もまだ異性として意識したままの姉への想いに折り合いがつかずにいた。雨で気分も沈む。ジメジメとした湿気は肌に纏わりつき鬱陶しく、空を見上げても一面彩度の低い色が広がっているだけだった。

理央が由奈に告白したとき。理央が朱里と家族になり、気持ちに変化が生まれる。由奈の心が友人に揺らぐのを恐れ、由奈の姿を探す理央は恋する少年そのもの。彼を想い続ける彼女も同様で。そんな2人が非常階段で鉢合わせたとき、夕立に見舞われる。2人の出会いを祝福するかのように、降る雨1粒1粒が光を目一杯吸収していた。理央が由奈を抱きしめる。由奈の感情に呼応するように、雨粒が1つ、また1つと弾ける。理央が思いの丈を由奈に伝えると、全ての雨粒がまるで花火のように咲き誇る。恋が成就すると世界はここまで色づく。雨は何も曇天のときに降るだけのものでもないし、涙は悲しいときに流れるものでもない。雨も涙も、夕立や嬉し涙となると、まるで結ばれた恋みたく美しい。そう思った。

 

声優さんのお芝居に関しては鈴木さんと信長さんが特に印象的でした。

市原由奈役の鈴木毬花さんは新人であることを微塵も感じさせない芝居、圧巻でした。声質といい劇場版でメイン役ポジションを務める感じといい、石見舞菜香さんを彷彿とさせる。かなり好きな声。天下の大沢事務所様様。

山本理央役の島﨑信長さんもうとにかくかっこかわいい。ずるい。決め台詞なはずなのにキザすぎない。「等身大の男の子」そのもので惚れる。学祭で王子様コスを由奈に見られたときの芝居が胸キュンすぎて悶えた。

 

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朱里には水面と雪。

冒頭。足元の水たまりには真っ青な空、純白の雲、太陽が眩いくらい差し込み、光に満ちていた。それなのに空はあまりに暗く、あらゆる色を飲み込んでしまいそうなほどだった。

朱里は上辺を取り繕って過ごしていた。引っ越す前に付き合っていた彼氏から振られても「大丈夫」だと言い。理央を含めた家族への本心を隠し。好きになった和臣への本心を抑え込んで、なかったことにし。理央との和解や、和臣との交流を経たところで本質的には何も変わらない。両親は相変わらず不仲で、和臣に想いは届かなかった。それでも校舎屋上の水たまりには温かさ溢れる秋空が映し出されていた。

季節は梅雨から冬へ、雨は雪に変わる。朱里は家族から、和臣から逃げ出す。和臣のお気に入りの場所で「どこまで行っても地続きの現実があるだけ」と言われていたのに。それでも逃げずにはいられなかった。変わらない曇天と現実から。幸せそうな由奈からも。

そんな彼女を和臣が見つけ出し、想いと伝える。由奈と理央を包んだ雨のように、雪が朱里と和臣を包み込む。白雪は色づき、きらめく雪が2人を優しく照らす。

水たまりには望む世界がいつも映し出されていた。地に足をつけて、素直になればよかっただけ。わざわざ、曇天の向こう側の青空に憧れる必要はなかったのだ。足元には最初からなりたい自分がちゃんといたから。

 

 

 

曇天から始まった本作。最後のカットは冒頭に朱里の足元にあった水たまりのようで。空の青と同じくらい、綺麗に笑う4人の幸せそうな顔を劇場で見られて本当に良かった。

 

 

 

 

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雨でも晴れでも 空のない世界でも
また明日 明日が ちゃんときますように

一緒じゃなくても 一人だったとしても
また明日の中に 君がいますように

 

 

 

 


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